歯 科

「入れ歯」について
歯学博士
飯田 一実

「入れ歯」についてイメージ

 歯科医師が努力して良く出来た入れ歯でも、噛む力は今迄の自分の歯であった時の半分になります。又歯ごたえを感じとる歯根膜も無い為、自然の歯とは違ったものになることはやむをえないことと思います。新しく入れ歯が入っても噛む訓練が必要で、2週間位は慣れるまでに時間が必要です。入れ歯が入ってすぐにスピーチを引き受けたり、硬い好物にかぶりつくのは注意しなければいけません。

 入れ歯が安定しているのは、表面脹力のお陰なので、入れ歯と口腔粘膜との間にある唾液のせいで、入れ歯の床は変形しなくても、会話や咀嚼時に粘膜との間に空隙が出来ると、入れ歯は落ち易くなります。どんな状態の時に入れ歯が落ちるかを知り、落ちそうになる前に舌で押さえたり、周囲の筋肉を使って入れ歯の落下を防ぐように訓練することが大切です。これが出来るようになると、特に意識しなくても上手に入れ歯を使用出来るようになります。

 入れ歯になると今迄と違って「食べ物の味がわからない」「食べたいものが噛めない」等の不満が出ますが、次第に自分の歯で噛んでいた頃の好物の味や食感の記憶が薄れ、現在の入れ歯で食べられる物を好んで食するようになる様です。
この入れ歯で何でも食べられるという人が多く居るようですが、入れ歯で噛むのは無理な物は食べないからなのでしょう。
初めて入れ歯を入れた人が、あの人は入れ歯で何でも食べられると言うが、私の入れ歯は今迄のものが食べられないと不満をもつのは、入れ歯では無理なものを食べようとしている事が多いようです。

 餅・たくあん・ピーナッツ・スルメ・ビフテキ等は食べ難いものの代表的なものですが、たくあん・ビフテキ等には、かくし包丁を入れてもらう工夫をして食事を楽しくすることも出来るようです。
入れ歯が入ったら、言葉を覚え始めた子供と同じく、入れ歯に合った噛み方、話し方の訓練が必要です。その他に毎日正しい入れ歯の手入れも大切なことです。

 入れ歯の種類には、部分的な義歯と、歯が1本も無い人の総義歯とが有ります。バネを使用している部分義歯では、バネを付ける歯の手入れを良くする必要があり、これを怠るとその歯がムシ歯になったり、歯周病になったりするので気を付けなければいけません。総義歯の場合でも、入れ歯を良く磨いておく必要があり、歯グキの手入れも重要になります。食後は必ず入れ歯をはずして、自分の歯やドテの部分を磨き、入れ歯の方も入れ歯専用の清掃ブラシでバネが歯に接する面や粘膜にあたる床の部分をていねいに清掃することが大切です。

 夜間は、良く洗った義歯を洗浄剤の入ったコップに入れて義歯の消毒を行い、粘膜を休めることも大切です。手入れをせずに昼も夜も入れっぱなしにしておくと、粘膜や歯槽骨は休むひまが無く粘膜は炎症を起こし、骨の吸収も起こり入れ歯が合わなくなる原因にもなります。

 一晩はずしておいた入れ歯は、翌朝はめると多少違和感が有ってもじきに慣れます。
夜間入れ歯をはずすことにより、顎が疲れると感じる人は一日のうち何時間か入れ歯をはずして、口腔粘膜を休めるようにし、この間に入れ歯の清掃消毒をすると良いでしょう。

 不潔な歯、汚れた入れ歯を入れたままの睡眠は、性肺炎の原因にもなりますので気を付けたいものです。
今年の歯の衛生週間のテーマは「歯がつくるこころの元気からだの元気」です。また食べる楽しみは高齢者のQOLを高めます。たとえ自分の歯を失っても、質の良い義歯を入れておいしく食べられるようにしたいものです。

 厚生労働省では今年「健康日本21」という政策を打ち出しました。これは病気の第一次予防として個人が生活習慣に気を付けることに重点を置いているのが特徴で、この中に歯の健康も入っています。21世紀を健やかに生きるためには、自分の健康は自分で守るという自覚が必要といえます。
普段から歯・義歯の手入れにも気をつけましょう。